『くだもの』-語り手と聞き手の対話
平山和子さんの素敵な絵本、『くだもの』(福音館書店)です。
すいか さあ どうぞ
もも さあ どうぞ
ぶどう さあ どうぞ
・・・・・・
ばなな さあ どうぞ
ばななのかわ むけるかな?
じょうずに むけたね。
絵本を読みながら、果物を食べるまねをしている子どもも、いることと思います。
さて、絵本のなかで、「すいか さあ どうぞ」と語っている人物がいます。
この人物を、「語り手」といいます。
ところで、この語り手は、誰にむけて、「さあ どうぞ」と言っているのでしょうか。
文章を読むかぎり、まったくわかりません。この相手が誰なのかを意識して読んでみますと、謎ときのおもしろさがあります。
しかし、とにかく、このように呼びかけられている人物がいます。この人物を、いま「聞き手」とよんでおきます。一般に、「聞き手」はおはなしに顔をだしませんが、「あなた」や「きみ」と呼びかけられているときがあります。
読者は、この「聞き手」を意識することなく、直接、自分に語りかけられた言葉として聞くのではないでしょうか。
しかし、この絵本の場合、「聞き手」が描かれています。最後に登場した女の子でした。聞き手は、絵で表現されています。
ですから、最後のページに、「聞き手」の女の子が描かれていることに、意外な感じをもつのではないでしょうか。
読者は、自分に向けて、「さあ どうぞ」と、言われているとばかり思っていたのに、
自分ではなく、女の子に向けられていたことを、最後になって発見します。
この結末は、複雑で微妙な感情体験を生みだすことと思います。
「この女の子は、わたし」と言う子ども(読者)もいることでしょう。
食べてみたい果物が、リアルな絵で描かれていて、読者を引きこむ力のある絵本です。
ひとりでも、楽しめますが、親子で、対話しながら、読みたい絵本です。