ふるはしかずおの 絵本ブログ

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『かにむかし』-クライマックスの文章

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 『かにむかし』(木下順二文、清水崑絵、岩波書店)の最後の場面は、息のながい文が続きます。読みかたりのむずかしい場面でしたので、きょうはここを書いてみます。

 

 それまで はいのなかで きばっていおった ぱんぱんぐりは、もう がまんしきれんように なるまで きばったところで、さるの せなかへ ぱーんと はねくりかえった。

 「きゃあっ」

と、とびあがって どまへ とんでにげて、みずを かぶろう、とおもって、みずおけの みずへ

しゃっと 手をつこっだところが、まっておった こがにどもは、そうれっと、がしゃがしゃ、がしやがしゃ、さるの からだへ とっついて、からだじゅうを じゃきじゃき、じゃきじゃきと はさみきりだしたから、さるは ますます びっくりして 戸口のところへ にげたところを、うえから ぶーんと はちは まいおりて、さるのあたまを じーんと、するほど さした。

 さるは もう なにも わからんように なって、戸口を ひとあし とびだしたところが、そこには うしのふんが すわっておったもんで さるは つるりと すべったひょうしに そこに たって まっておった はぜぼうに あしが ひっからまって、はちに さされた あたまを ごつうんと ぶったと おもったときには、

 うえから-

 おおきな 石うすが どしーんと おちてきて、さるは ひらとう へじゃげて しもうたそうな。

 これで おしまい

 

 このクライマックスは、読んでみますと体にじかに響いてくるような慌ただしさや緊迫感があります。ぱーん、きゃあっ、しゃっ、そうれっ、がしゃがしゃ、じゃきじゃき、ぶーん、じーん、つるり、ごつうん、どしーんといった音感的な言葉(オノマトペ)の大盤振る舞いです。仮に、これらの言葉を抜いて読んでみますと、その効果がよくわかります。この場面の慌ただしさやにぎやかさ、おはなしのテンポを作りあげています。 その場に居合わせるような臨場感を感じます。

 この場面は4つの文から出来ていますが、2番目と3番目の文が、とても息のながい文になっています。切れるようで切れずに綿々とつづく文体は、木下民話の特徴のひとつですが、この場面にも、それがよくあらわれています。

 映画表現のひとつに、カットバックという手法があります。カットバックとは、ふたつの場面を交互に挿入して、緊迫感などの劇的な効果をたかめる映像方法のことですが、『かにむかし』のこの場面も、カットバックの手法に似ています。視点が小気味よくかわって、とてもおもしろいテンポを作りだしています。

  ぱんぱんぐりは・・・・・。(さるは)・・・・・、こがにどもは・・・・・、さるは・・・・・、はちは・・・・・。

さるは・・・・・、うしのふんが・・・・・、さるは・・・・・、はぜぼうが・・・・・、石うすが・・・・・、さるは・・・・・。

  文は、このように切り目なくつながっていきますが、けっして冗長な感じをうけません。畳みかけるようにして、さるをどんどん追い込んでいきます。オノマトペの響きによってにぎやからなった世界に、テンポがあり、リズムと強さをもった文が織り込まれています。この文体をいかした「読みかたり」を心がけたいものです。